人生をデッサンする4
自己破産をすすめてきた弁護士は、目の前の男の煮え切らない態度を見ると、無意識かわざとか、小さなため息をつくと次の項目を指差した。
【2 個人再生手統】
(1)制度の概要
裁判所に対して、破産手続と同様の資料を揃えて、個人再生手続の申立てをします。
債権者に対する債務額を5分の1(最低弁済額100万円)に減縮した金額を、原則として3年間で分割して支払うという再生計画案を提出して、債権者の賛成及び裁判所がその計画案の認可決定を受ければ、この決定に従って弁済することにより、5分の4の債務は免除されるという制度です。
簡単にいえば、債権者の賛成を得て借金の額を5分の1に減額してもらって、減額された借金を弁済していくという制度です。
ただし、再生計画が途中で頓挫した場合には、破産手続に移行します。
借金がゼロになるわけでなく、100万円まで減額できる制度だ。100万円を3年で返すとなると、月に3.3万円の返済となる。これならそれほど無理もなく返せそうな気がする。
(2)メリット
- 評価額20万円以上の財産も保持し続けることができる可能性があります(負債を5分の1にした金額と保有資産とを比較して、多い方の金額を弁済する)。
- 住宅ローン特別条項という特別の定めができれば、住宅ローンの残っている住宅に住み続けることができる可能性があります(ただし、これにはいろいろ条件があり、簡単ではありません。)。
- 資格制限はありません。
- 免責不許可事由という概念がないことから、浪費・賭博があっても個人再生を行うことができます。
ただし、過去の破産や任意整理を行っている場合には、民事再生が簡単にはできない場合があります(返済額を資産に組み入れる必要があるからです。)。
(3)デメリット
- 破産と同様に、借金を選ぶことができません。
- 借金の支払いを継続する必要があります。
(資産の残高か、圧縮された負債額か、いずれかの弁済が必要)* 給与の振り込み口座になっている銀行からの借り入れがある場合には、預金の凍結、相殺を避けるために、振込先を変更する必要があります。
- 裁判手続きが複雑で、半年以上の期間が必要です。
メリットしかない気がするが、弁護士が言うには、債権者が必ずしもこれに同意してくれるとは限らないとのこと。
借金は減るが、それでも支払いがなくなるわけではない。弁護士は再び自己破産をすすめてきた。
人生をデッサンする3
「債務整理の方法」と書かれた資料は注意書きから始まる。
【注意】
*弁護士に借金の処理を依頼すると、今後、お持ちのクレジットカードを使用することができなくなります。また、新しいクレジットカードを作ることも、5~7年間程度の期間はできなくなります。(貸金業者等の用情報に事故情報として掲載されることになるからです。)。
*過払金の有無を調査した場合でも、調査した金融機関との間の取引は、できなくなることをご了承ください。
債務整理できるかできないかに関わらず、弁護士に依頼しただけで、ブラックリスト入りする。過払い金の調査をしただけで金融機関との取引ができなくなる。
この注意書きを読んで、政務整理を躊躇してしまう債務者が多いのか、弁護士は考える暇を与えず間髪入れずに次の「手続の説明」を指差した。
【手続の説明】
弁護士が関与して、借金(=負債・債務)を処理する方法としては、破産手統、民事再生手統、任意整理という3つの方法があります。
ただし、それぞれの手続に、メリット・デメリットがありますので、簡単に手続の概要を説明します。
3つもあるのかという興味よりも、メリット・デメリットという言葉の使い方の違和感が強く、デメリットしかないだろ、という気持ちを抑え、ただ弁護士の言葉に従順にうなずきながら次の項目へと視線を動かした。
【1破産手続】
(1)制度の概要
裁判所に対して、負債の一覧表、収入や資産の明細等の資料を揃えて、
- 破産手続開始の申立て
(債務者の財産を換価し、回収して債権者に配当する手続)、- 免責許可の申立て
(税金など以外の負債の支払いを免れる手続)
という2つの申立てをする制度
いわゆる自己破産というやつですね、と弁護士は聞きたくなかった言葉をさらりと口にする。メリット・デメリットを言う前に、500万という額を考えるとこの方法が最善ではないかと弁護士は顔を上げて眠そうな顔で言った。
(2)メリット
免責許可決定を受ければ、法律上、借金の支払いをする義務が免除されます。ただし、税金等の支払義務は免除されません。
借金がチャラになるということ。
(3)デメリット
- 借金を選ぶことができません。
★消費者金融は返さないけど、友人の借金は返したいということは
できません。- 評価額20万円以上の財産(自動車や生命保険)を保持できません。
- 住宅ローンが残っている住宅に住み続けることはできません。
(住宅を売却して、一部を破産財団に組み入れる。)。- 官報に掲載されます。
- 資格制限(備員、保険外交員など)があります。
- 免責決定を受けることができない場合があります。
過去に破産手続を利用している場合には免責不許可事由に該当す
る可能性があるので、注意が必要です。
借金を選べないと言うのは、複数借金をしている場合の話で「この借金は破産手続きするけれど、これはしない」ということができない、という意味だ。
以前は官報に載った自己破産者の名前をネットでさらし、消してほしければ金を払え、という詐欺が多かったらしい。つまり、自己破産すると「この人、借金踏み倒しましたよ」と公にさらされるというわけだ。
そのほかにも、仕事の制限があったり、20万円以上のものが買えなくなったりと、借金をチャラにする代わりの代償がのしかかってくる。
弁護士はメリット・デメリットを説明したうえで、一度、すべて精算して人生をやり直した方がいいと思いますよ、と本来、人ができるはずのない人生のやり直しをすすめてきた。
人生をデッサンする2
呉服屋が建てた古いビルの4階にその法律事務所はあった。古いビル特有の狭いエレベーターが小刻みに揺れながらゆっくりと上がっていく。古びたビルの外観に反して、事務所は都心のオフィスのように整然とデスクが並び、相談に来た人の緊張をほぐすためか、目につくところに観葉植物が置いてある。出てきた女性に事情を話すと、ああ先ほどの、とすぐに理解し来客用の会議室に通された。
用紙に名前や住所、相談内容などを記入する。場所が変わるだけでいつも書く情報が違うものに見えてくる。1文字1文字が重みを持つ。
天井を見上げると、埋め込み式のエアコンを中心に染みが広がっていた。
面倒臭そうに入ってきた弁護士は、自分と同じぐらいの年齢かもしれないが、債務者と弁護士という関係のせいか、歳上に見えた。イスに座り、名刺を渡すなり、早々に本題に入る。借金の額を伝え、自分の年収を伝えると、大きくため息をついた。どいつもこいつもなんで借金なんかするんだよ、と言いたげなため息だった。ため息の分だけ重くなった空気が後頭部にのしかかり謝るように頭を下げた。
なぜ借金をするにいたったのか説明している間も、弁護士は話に同情するわけでもなく淡々とバインダーに挟んだA4のコピー用紙にメモをとっていた。こういうときのメモは相談者に見えないように取るものと思っていたが、隠すことなくはっきりとした文字でメモをとる。
できるだけ簡潔に話したつもりだったが、もしかしたらダラダラと話してしまったのかもしれない。弁護士は一切同情するような相槌や表情は見せずに事務的な質問だけし、何の前触れもなくホッチキスで止められた資料を差し出した。
人生をデッサンする
今に始まったことではないのだが、気づいたら借金が500万円を超えていた。もう無理だろう。このまま払い続けても、その未来には何もない。
行政がやっている相談ダイヤルに電話したところ、消費者生活センターに来てくれれば弁護士を紹介できるという。弁護士との相談は初回無料。ただ、相談に来たその日に弁護士と面談できるのは10回に1回程度。大抵は、消費者生活センターで日程を調整し、後日弁護士と面談になるという。
今まで借金問題を放置していたにもかかわず、弁護士に相談しようと思った途端、一日でも早くどうにかしたいという気持ちが湧いてきた。日程を調整して消費者生活センターに行き、そしてまた日程を調整して弁護士事務所にいく。二度手間だ。直接弁護士を探した方が早いと思ったが、間に行政が入った方がなんとなく安心感がある。後日、消費者生活センターに行くことにした。
担当者は金額を聞いてもとくに何の反応も示さずに、対応可能な弁護士に問い合わせてきますね、と言って会議室とも言えない中途半端な広さの部屋を出ていった。
平日昼間の消費者生活センターに相談に来る人は誰もいなく、節電のためかフロア全体が薄暗い。天井も低く感じる。
男性職員はスーツ、女性職員は皆カーディガンに黒かグレーのパンツ。カーディガンを着る決まりなのだろうか。たしかにカーディガンを見ると、少し心が落ち着く気がする。
「今日って、これからお時間ありますか?」
担当者が少し慌てた様子で帰ってきた。これが10回に1回のチャンスか。ここから徒歩10分ぐらいの距離にある法律事務所の弁護士が話を聞いてくれるという。プリントアウトしたYahooマップを受け取り少し早足で向かった。
いなくなる方法
死ぬ方法をいろいろと考えていた。
具体的に言うと、死にたいわけではない。いなくなりたいのだ。存在を消したいのだ。そして自分を知っているすべての人の記憶から自分を消したいのだ。しかし、今の人間世界でいなくなりたいとは死にたいとほぼ同義なので、いくら「いなくなりたい」と言っても他人には「死にたい」に聞こえてしまう。それでもいい。しょうがない。
そして、最初に戻る。どうやったら死ねるかだ。あまり大袈裟にしたくないのでこの言葉は使いたくないのだが、つまりはどう自殺するかだ。
繰り返しになるが、根本にあるのは「死にたい」ではなく「いなくなりたい」なので、あまり自殺もしたくはない。そうもいかない。いなくなるのは死ぬしかないのだ。
自殺の方法はいろいろあるが、できるだけ痛くなく、他人に迷惑をかけずに死にたい。そして、「いなくなりたい」のだから、遺体は誰にも見つけてほしくない。ずっと行方不明のままでいい。自分の中では自殺だだ、他人にとっては「いなくなる」ことになる。
30歳を過ぎた頃からこの気持ちが芽生えはじめた。うまくいかない人生を誰かのせいにするつもりはない。すべて自分が選択したことだ。にしても、運が悪いと思うことはある。プロジェクトがなくなり無職になったり、就いた仕事が徹夜続きだったり。何をしても何かが満たされることはなく、転職回数も多くなった。
結婚を機に自分のためではなく、妻のために生きるという新たな目的ができ、少しは前を向けるようになったと思うが、諸事情あり、借金が増えて、生活もかなりいびつな形で綱渡り状態だ。
妻には悪いが、いなくなりたい気持ちはかなり強い。
自己破産して借金がなくなれば、と思うこともあるが、順番が違う。いなくなれることを確信したときに自己破産すればいい(ここで他人に迷惑をかけてしまうのは避けられない)。
方法の話に戻ろう。
飛び降りは誰かに迷惑がかかる。首吊りは苦しそうだ。他人に迷惑をかけることだけでなく、自分が痛い、苦しいも避けたい。
薬を飲む方法もあるが、オーバードーズなどの問題で大量の薬を手に入れるのは難しい。一粒飲めば苦しまずに即死ねる、そんな薬でもあればいいが。青酸カリは苦しそうだ。まず手に入れることができない。
場所についてはなんとなく目星をつけている。樹海だ。
樹海の奥深くであればなかなか見つからずに迷惑をかけることも少ないんじゃないかと思っている。
樹海であまり苦しまずに死ぬにはどうするか。
餓死を考えたが、苦しそうだ。何日もかかってしまうのもあまり気持ちのいいものではない。
練炭はどうだろうか。
樹海に気密性の高い空間を作り、そこで練炭を炊き一酸化炭素を充満させる。
大きなビニールシートを木から吊るしてテントのようにし、できるだけ空気が逃げない空間を作ればできるんじゃないだろうか。荷物も予算も最小限に抑えられるような気がする。
季節は冬がいい。夏は日が長く、樹海の周辺に人も多いだろうからバレる可能性が高い。
寒いのは嫌だが、冬がいいだろう。
冬に樹海で練炭でこの世界からいなくなる。
これが今のベストな方法だ。
脳のキャパシティ
最近色々とありすぎて脳のキャパシティがいっぱいいっぱいだ。文章を書くことに脳を使うことができていない。実際は文章を書くキャパはあるのだろうが、そのキャパを作業に使ってしまうと脳がパンクしてしまう。脳は休憩するにもキャパを使うのだ。考えるだけでなく、本を読むときにもキャパを使う。天気予報を見ながら今日洗濯するかどうか考えるのもキャパを使う。ひとつひとつは小さなことでも、作業が増えると脳のキャパはあっというまにいっぱいになる。一番脳のキャパを割いているのはどうお金を稼ぐかだ。生きていれば皆このことに一番脳を使う。文章を書くことはだんだんと後回しになる。しかし、理想としては脳のキャパがいっぱいでも文章を書ける脳を持つことだ。歩くように息をするように。文章が出てこないのは脳に文章が溜まっていないからだろう。言葉が自分の中に溜まらずに、ぽたぽたと漏れている。脳に穴が開いているようだ。ふと一日を振り返ったときに言葉が溜まっているはずの場所には何もない。空っぽの一日のようだ。言葉を脳に溜めよう。どうやって?言葉を考えるためのキャパを確保しなければ。つまり、時間を確保するということだろうか。言葉を考える、言葉を脳にためる時間を確保する。どんな言葉でもいい。考えすぎずに。
お題「名指し」「思量」「だしぬく」
名指し:名前をあげて、その人を指すこと。(P1122)
思量:あれこれと、比べ合わせて、考えること。(P747)
だしぬく:すきに乗じ、また、だまして、他人よりも先に何かをする。(P918)
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三十歳でホストになった新人ホスト。ハッカーの能力を持っている。年下の先輩ホストと狭い部屋での共同生活。新人なので雑用をいろいろとやらされる。洗濯をしようと先輩ホストのパンツのポケットに手を入れると一枚の紙切れを見つける。女性の名前を電話番号、SNSのアカウントらしきアルファベット。ほかの先輩のパンツからは女性の名刺。洗濯するたびに女性の情報を手に入れる主人公。女性のことを徹底的にリサーチし、一番お金を持っている女性をターゲットに絞り、指名を勝ち取る。
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通勤電車内で痴漢に間違われた男。女性に「この人痴漢です」と手を取られる。その女性は会社の同僚だった。社内コンペで競っている相手。お互いに存在に気づいたが、彼女はここで男が痴漢になれば自分が社内コンペで勝てると思い、他人のふりをして男の手を離さず電車から降ろし、駅員に引き渡す。