人生をデッサンする2
呉服屋が建てた古いビルの4階にその法律事務所はあった。古いビル特有の狭いエレベーターが小刻みに揺れながらゆっくりと上がっていく。古びたビルの外観に反して、事務所は都心のオフィスのように整然とデスクが並び、相談に来た人の緊張をほぐすためか、目につくところに観葉植物が置いてある。出てきた女性に事情を話すと、ああ先ほどの、とすぐに理解し来客用の会議室に通された。
用紙に名前や住所、相談内容などを記入する。場所が変わるだけでいつも書く情報が違うものに見えてくる。1文字1文字が重みを持つ。
天井を見上げると、埋め込み式のエアコンを中心に染みが広がっていた。
面倒臭そうに入ってきた弁護士は、自分と同じぐらいの年齢かもしれないが、債務者と弁護士という関係のせいか、歳上に見えた。イスに座り、名刺を渡すなり、早々に本題に入る。借金の額を伝え、自分の年収を伝えると、大きくため息をついた。どいつもこいつもなんで借金なんかするんだよ、と言いたげなため息だった。ため息の分だけ重くなった空気が後頭部にのしかかり謝るように頭を下げた。
なぜ借金をするにいたったのか説明している間も、弁護士は話に同情するわけでもなく淡々とバインダーに挟んだA4のコピー用紙にメモをとっていた。こういうときのメモは相談者に見えないように取るものと思っていたが、隠すことなくはっきりとした文字でメモをとる。
できるだけ簡潔に話したつもりだったが、もしかしたらダラダラと話してしまったのかもしれない。弁護士は一切同情するような相槌や表情は見せずに事務的な質問だけし、何の前触れもなくホッチキスで止められた資料を差し出した。