本とゲームとサウナとうんち

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本当のスカウトをください

10年ほど前、二十代後半の頃、三回目の転職だったと思う、「スカウトが届きました」という件名のメールがとある転職サイトから届いた。転職コンサルタント会社のエージェントからのメールだった。僕のコピーライターの経験に注目したという。

「こんな僕にスカウトが届くなんて!僕の能力はそれくらい高いんだ!」

少し誇らしげな気持ちになり、興奮気味に面接に向かった。
メールに書かれてあった企業を紹介されるのかと思ったらその求人は昨日締め切ってしまったらしく、ほかの企業を紹介された。少し面食らったがスカウトをもらった嬉しさの余韻もあり、勢いでその企業を受けることにした。

一次面接と二次面接を難なくクリアし、三次の社長面接に進んだ。面接も終盤にさしかかり、じゃあ一緒に頑張りましょう、といった雰囲気になったときに社長が言った。

「そういえば、うちは完全週休二日制じゃないけど大丈夫?」

詳しく聞くと隔週で週休二日制の会社だった。これまでの面接でも、エージェントからもそんな話しはまったく聞いてなかった僕は「少し考えさせてください」と面接を終え、その後お断りの連絡を入れた。

それから数週間後、別の転職会社から再びスカウトのメールが届いた。当時僕はコピーライターだったが、過去には3DCGデザイナーをしていた。その経験に注目したらしい。そのとき、再びデザイナーに戻ろうか迷っていた時期だったので、これはいいタイミングだと思い面接に向かうと「その企業は求人を締め切りました」の言葉。そして「コピーライターの経験を活かしてこちらの企業はいかがですか」と広告制作会社を薦められた。断った。

再びスカウトメールが届いた。二度もそういうことがあったので、僕はもうスカウトという言葉に心が踊らなくなっていた。そのメールには飲食店の店長候補と書かれてあった。いったい僕のどの経歴を見てこんなメールを送ってきたのだろうか。僕は自分の経歴を見直した。大学時代に飲食店で半年ほどバイトをしていた。これか。これを見て「スカウト」か。

僕はここでやっと悟った。転職業界のスカウトは僕が思っていたスカウトとはまったく違うことに。

スカウトといえばプロ野球だ。能力の高い選手を各球団が取り合い、交渉権を獲得した監督がガッツポーズする。スカウトを受けられるのは限られた選手のみ。

そのスカウトを僕が受けるなんてことはないのだ。二十代後半のそんな特殊な経験もしていない人間にオファーなんて出すわけがない。心踊らせていた自分がとても恥ずかしくなった。まだまだ自尊心が強く、何者かになれる、何かができる、そう思っていた時だった。そんなときに「スカウト」なんて書かれたメールを見て心躍らせてしまうぐらいは許して欲しい。それ以来、オファーメールはすべて無視した。

あれから10年。勢いで会社を辞めてしまった僕は、再び転職サイトに登録することになった。

そして案の定、スカウトメールが届いた。10年前と何も変わっていない。むしろひどくなっているような気がする。
ゲーム会社での勤務経験に注目したというエージェントからシステムエンジニアのスカウトが来た。僕がゲーム会社にいたのは15年ほど前だ。しかもシステムエンジニアの経験は一切ない。とりあえずゲーム会社に勤務経験のある人に自動でメールを送っているのだろう。

それからも続々スカウトが届く。

ゲームプログラマー(経験なし)。
WEBデザイナー(経験なし)。
住宅会社営業(経験なし)。
DTPオペレータ(経験なし)。
軽車両ドライバー(経験なし)。

エージェントが登録したワードに少しでもひっかかれっばその人にメールが行く仕組みになっているのだろう。僕の経歴のどこにひっかかったのかわからないが。

自分に合った仕事を探すのは自分でも難しい。それを赤の他人が見つけられるなんてことはない。けれど、スカウトメールシステムが10年前と変わっていないということは転職業界ではこれが最適な方法ということなのかもしれない。

たしかに、もうどうにもならない、仕事なんて選んでいられない状況になったときに、このスカウトメールは役に立つ。そして死んだような顔をして働くのだろう。

10年後の自分にはどんなスカウトメールが届くのだろうか。